晩夏の清流、フライを振って…。栃木県奥日光・湯川

 栃木県奥日光・湯川

いざ、フライフィッシングの聖地へ

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湯滝の滝壺。轟音が絶え間なく響き渡る

夏の終わりが足音を忍ばせながら、そろりそろりと近づいてきた頃。

小学生のころから憧れだったフライタックルを握りしめ、フライフィッシングの聖地とも称される、栃木県は奥日光・湯川へとやってきた。

フライフィッシングのメインとなる渓流釣りは、夏の終わりとともに禁漁を迎える。

シーズン終盤のデビュー戦。

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宇崎日新のロッド、リールはMarryat 7.5。どちらかというとエリア向けだ。

前日に慌てて手に入れた、中古のロッドと中古のリール。

思い立ったらなんとやら、というやつである。

もちろん下調べなどついていない。店員さんにお願いして、在庫の中からなんとか様になるよう見繕ってもらったものだ。

 

湯川に降り立って、まず初めにキャスティング練習を始める。

初心者丸出しでいささかの恥ずかしさもあるが、来てしまったものは仕方がない。

誰もいない川べりで、恐る恐るロッドを振り始める。

昔見たテレビなどの映像を思い出し、自分の中では何となく出来ているつもりで振ってみる。が、思ったようにフライは遠くに飛んでいかない。糸ばかりが前に出て、フライは足元へ着水してしまうのだ。

1時間も四苦八苦してようやく、うまくフライを飛ばすことができるようになった。

うまくは言えないが、竿を振るときに糸の重量を竿先に残してやるタイミングだ。

 

初めての、一匹 

湯滝の滝壷

 湯川、一番人気のポイント。

そう、「湯滝の滝壷」だ。

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落差70メートルの流れが、止め処なく飲み込まれてゆく

迫力満点の 滝を前に、初心者は間違いなくしり込みするだろう。

まさに、私がそうだ。

引け腰のまま、フライを滝壷に投げ入れていく。

あくまで冷静と、熟練を装って。

ここは観光名所、背後には滝見台。

観光客は私を見に来ているわけではないが、人目というのは背後にあると、ことさら気になるものなのである。

滝下の虹鱒

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滝壷の流れ出しでようやく一匹

滝の下で10投ほどだろうか。

流れを追い越すように、ラインが走る。

フライタックルでの合わせはわからない。何せ初めて握っているタックルだ。細いナイロンのティペットなので、無理はできないという肌感覚をもとに、ゆったりと、しかし大きくスイープさせる合わせを入れる。

ノッた、という生命感が竿を握る右手に伝わってくる。

生命の躍動が、竿を通じて確かに伝わってくる。

釣り人なら、だれもがこの感覚を味わいたいがために、水辺に足を運ぶのだ。

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フライで初めて釣ったニジマス。照り返す鱗が美しい

魚を掛けたはいいものの、そのあとがまた未知の領域である。

エリアトラウトならドラグを緩めてハンドルを巻いていればいいが、直接糸を手繰るフライフィッシングではそうもいかない。

慌てながらも、竿のテンションはかけすぎず緩めすぎずに保ち、暴れる魚をいなしながらフライラインを恐る恐る手繰り寄せる。

たっぷり時間をかけて魚を落ち着かせる。

無事ネットインしたのは、35センチほどのニジマスだ。

滝の流れに鍛えられた、力強い一匹だ。

さらなる一匹を求めて

中流域へと釣り下る

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湯川の隠れ名所・小滝。静謐な佇まいが印象的だ


 有名ポイントの湯滝エリアで一匹連れたことから、今度は中流域へ開拓に向かう。

ある程度釣果の保証されているポイントから、より難しいとされる場所へと欲が出てくるのは、釣り人の性か。

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湯川を釣り下る。情報通り、魚影は薄く…
倒木下から、ようやく目当ての… 

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細い倒木。ブルックトラウトはこういう物陰に潜んでいるという

 釣り下る途中、川の所々に横たわる倒木の下にフライを送り込んでいく。

これがルアーフィッシングなら、ロストを恐れて躊躇してしまう攻め方だ。

何しろ渓流用のシンキングミノーは1700円ほどもする上、根掛かりロストは日常茶飯事ときている…。

その点フライは、言ってしまえば針とひとつまみの鳥の羽である。おまけに根掛かりのリスクも低く、大胆な攻めもしやすい。

私が渓流釣りをフライフィッシングに乗り換えたのも、そのあたりに理由があるとか、ないとか…。

初めてのブルックトラウト

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ひたすら倒木の下をまさぐりながら、ようやくアタリが…

 

 中流域の探索にたっぷり時間を費やし、何本もの倒木を乗り越えてきた、その十数本目。

ここまでと同じように、フライを倒木の上流側に投げ、流れに乗せてゆっくりと送り込んでやる。

同じ場所に二度三度、フライを送り込んでいると、ス、とフライラインが走り出した。

慌てず、ゆっくり、大きくスイープフッキングを入れる。

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倒木の下から。ようやく出会えた一匹

うわさに聞く、これがブルックトラウトか。

はぁ、と思わず大きなため息が漏れる。

この一匹のために、朝から既に6時間である。

 

一匹との出会いのために、時が経つのを忘れて彷徨する。

それが釣りの楽しみでもあるのだ。

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